喫茶店物語1_電話ボックス

秋の夜、これから寒い冬が来るのかぁと思えば、10円玉を何枚もジーパンのポケットに突っ込み、目的の公衆電話BOXへ一気に走る。

家から程よく遠く知り合いになるべく会わない公衆電話BOXへ。
10円玉を投入し、ダイヤルを間違いなく回し続ける。寒い。

受話器を耳に痛いほど、しっかり押しつけて。
すぐに目的の相手が出る事を、ただひたすら祈る。

が、決まって相手の母親が出る。

受話器の向こうの世界は、暖かい茶の間で、家族みんなでゴールデンタイムの人気歌番組を、楽しく視聴していたと思われる。
俺が、その幸せな暖かい時間に水を差したのか!と思えば、後悔の重たい気分が一気に押し寄せる。

やっと出た相手も、家族の手前、妙によそよそしい。
たぶん相手の父親も、その場近くにいるのだろうな、と思いながら、

・・・「今度、お茶しませんか?」・・・やっと伝えることが出来た。

その昔、喫茶店は、男女交際にとって必要不可欠な、神聖な場所(空間)だった。

初めて、レモンティを飲んだ時、輪切りのレモンは、紅茶にどれだけの時間浸けて、取り出したレモンはどこに置けば良いのか?
ウインナーコーヒーは、なぜウインナーというのか?
高校生時代、学校帰りに小樽市内のどこの喫茶店でタバコが吸えるか?
事前に、タバコが吸える店を情報収集し、○○店で補導されたと聞けば、また違う喫茶店へ・・と渡り歩いた。

いずれブロック崩しやインベーダーゲーム等のテーブルゲームが、色々な喫茶店に置かれ、ゲームをやりに行くようになってからは、店の雰囲気やBGMや珈琲の味の違いを楽しむ事を忘れる様になった。

東京の喫茶店で、狭いスペースにぎゅうぎゅう詰めに設置されたテーブルとイスを見た。会話がとなりに聞こえてしまう・・と喫茶店で初めてストレスを貰った。

愛知県の喫茶店は、やたらモーニングセットが安価で、豪勢だった。トーストに小倉あんがのったものを、生まれて初めて食べた。
うまかった。

あれから今の世の中、まさに喫茶店(カフェ)の中から、自分にぴったりのこだわりの店を探し求め、昔みたいに、また通い詰めて常連になることなんて、良いかもしれない。
色々なオーナーに会う事、心通わすこと、心を込めて入れられた一杯の珈琲を、心を込めて頂くこと、良いかもしれない。

高校時代、不純な目的で、小樽市内の喫茶店探しをしていた頃から、あの頃からは、少しは自分成長した?と思う。
それぞれのお店に恥じない様に、まだまだ自分を成長させなければいけないかも知れない。

自己表現の一つの場(ステージ)として、

改めて真剣に喫茶店探しをしてみたい、そんな気持ちになった。

今の自分に、ぴったりはまる喫茶店が、

この街には必ずあると思うから。

 

文・川嶋王志